湯船の国でオイルをまとう:秋の夜のアビヤンガ

秋の夜にオイルを使って行うアーユルヴェーダのアビヤンガを紹介するSaffron Roadのイメージ

秋の夜、給湯器のボタンを押して湯船がたまるのを待つ時間。その15分ほどを、インドの人たちなら別のことに使うかもしれません。小鍋で温めたオイルを手に取り、肩から腕、脚、足の裏へと、ゆっくり体に塗り広げていく。アーユルヴェーダで「アビヤンガ」と呼ばれる、オイルで体を包む習慣です。

アビヤンガという言葉は、サンスクリット語で「オイルマッサージ」を意味します。けれど実際の中身は、力を入れてもみほぐすというより、手のひらで体をなでながらオイルを行き渡らせる、穏やかなものです。

身支度としてのオイル

アビヤンガは、アーユルヴェーダの古典で「ディナチャリヤ」、つまり毎日の過ごし方のひとつとして紹介されてきました。歯を磨く、顔を洗うといった身支度と同じ並びに、オイルを塗る習慣が置かれているのです。日本で「マッサージ」と聞くと、お店で受ける特別なものを思い浮かべがちですが、インドでのアビヤンガはもっと日常に近い位置にあります。

基本になるのは、温めたごま油です。季節や体質によって、ココナッツオイルやハーブを漬け込んだオイルに替えることもあります。そして塗ったあとは、温かいお湯で体を洗う。オイルとお湯がひと組になっているところに、この習慣の面白さがあります。

日本のお風呂と組み合わせる

オイルのあとにお湯。この順番は、湯船につかる文化をもつ日本の暮らしにすんなり収まります。シャワーだけで済ませる国に比べると、入浴の前後に時間の余白をつくりやすいからです。

日本の住まいでの小さな工夫

  • 脱衣所に古いバスタオルを1枚敷いて、オイル専用の場所にする
  • オイルの瓶は、湯船にためたお湯に少し浮かべて温める
  • 浴室の床はすべりやすくなるので、洗い場に入ったらまず足裏を流す
  • 洗い終えたら、排水口まわりもさっとお湯で流しておく

ワンルームでも、脱衣所の一角があれば十分です。広い場所がなくても、日本の浴室は意外なほどアビヤンガに向いています。

平日と週末で分けてみる

仕事や家事で忙しい平日は、腕と脚、足の裏だけに塗る短いやり方で十分です。時間に余裕のある週末の夜は、頭皮から足先まで全身に塗り、少し長めに置いてからゆっくり湯船につかる。こんなふうに濃淡をつけると、無理なく暮らしに組み込めます。休日の午後、明るいうちに行えば、塗ったあとの浴室掃除もしやすくなります。

季節でオイルを替える楽しみ

アーユルヴェーダでは、乾きや冷たさといった性質を「ヴァータ」と呼び、空気が乾く秋から冬はその性質が目立ちやすいと考えます。この時期に重めのごま油が好まれるのは、そうした季節観によるものです。反対に、蒸し暑い日本の夏には、さらりとしたココナッツオイルのほうが心地よく感じられるでしょう。

衣替えのように、オイルも季節で入れ替える。そう考えると、瓶を選ぶ時間そのものが季節を感じるきっかけになります。ただし、ココナッツオイルは気温が下がると白く固まります。秋冬に使うなら、容器ごとお湯で温めてから使いましょう。

はじめる前に知っておきたいこと

天然のオイルでも、肌に合う合わないはあります。はじめてのオイルは腕の内側で試し、1日ほど様子を見てから全身に使ってください。台所にある茶色いごま油は、煎ったごまから搾った香りの強いものです。体に塗るなら、色の薄い「太白」タイプか、最初から肌用として売られているオイルのほうが向いています。

体調や持病、妊娠中・授乳中の方は、使用前に医師に相談してください。

オイルの量や塗る順番を詳しく知りたい方は、アーユルカイのアビヤンガ入門記事 https://ayurkai.jp/abhyanga-oil-massage-guide/ が参考になります。

湯船がたまるまでの15分を、自分の体に触れる時間にしてみる。窓の外で虫の声が聞こえる秋の夜長には、そんな過ごし方もよく似合います。

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